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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ラブの捨て犬

「あら、この子猫たちは、どうしたんですか?」

ゴールデンレトリバーのオリバーを飼っているマダムNが薬を取りに来られた時、待合室の子猫を見て聞きました。

「マダム、その子たちは、うちの駐車場に捨てられてたんです。」

三日ほど前のことです。朝スタッフが出勤すると、ダンボールに生後2か月くらいの子猫が4匹詰め込まれて、放置されていました。

「まあ、そうでしたか・・・。そんなことがあるんですか。先生、実は運動公園にもね、早朝ラブラドールの子犬が5匹捨てられてたんですよ。」

「え! ラブが?、純粋のラブラドールですか?」

「はい、そう聞きました。すぐ公園の管理棟に保護されましたが、3か月くらいの大きさでした。」

「ふーん、どうしたんでしょうね。」

「たくさん生まれてしまい、貰い手が全部見つからなくて、困ったんでしょうかね。」

「うーん、そうかもしれませんね。でもすぐ発見してもらって、カラスにやられなくて良かったなあ。」

「こんなたくさん、どうしよう、どこか里親団体に引き取ってもらおうと準備してたそうです。

ところが、『ラブなら私が欲しい』、『私も欲しい・・・』という人が次々に現われて、すぐみんな貰われていったそうですけど。

先生、この頃、また大型犬を飼う人が少し増えているみたいですよ、運動公園にも、最近ラブの子犬が2頭来てますし・・・。」

「へえ、しばらく小型犬に人気が移っていましたが、また大型犬を飼う人が出てきたんですね。」

深夜でしょうか、それとも早朝でしょうか。
人目をはばかって子犬や子猫を運び、遺棄し、立ち去るのにその人はどれだけドキドキしたことでしょう。

責任を放棄することは、人生の実りを放棄することでもあります。投げ捨てた責任は、私たちの人生そのものを、構築していきます。

たとえば飲み終わったペットボトルを一本、草むらに投げ捨てることの延長線上に、これらもあるのかもしれません。

三毛や茶トラや黒白や色んな模様の子猫を見ながら、人の弱さも教えられます。
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袋の中のカメムシ

「キャー、先生、出ました!!」

夜の9時過ぎ、一日の仕事を終え、お疲れさんと言って帰りかけた時です。

検査室と診察室の間で、カメ子が叫びました。

「えっ? どうした? どうしたの?」

私が慌てて行ってみると、カメ子がしゃがみこんでいます。

「ほら、これ!」

「なんだ、またバッタだって言うんじゃないだろうね。」

「違います、ほら・・・カメムシですよ・・・」

「何だって? カメムシ・・・」

確かにそこには普段見ないような最大級サイズの大きなカメムシが立ちふさがっている。

独特の不整五角形の甲羅を背負った草茶色の虫が、腰を上げるようにして構えている。

「刺激するな! カメ子、刺激するなよ。刺激すると、嫌な臭いが部屋にこびり付くからな。」

明日、病院中がカメムシの臭いで充満したらたまらないので、私たちは慎重に対応することにした。

「何か、ないかな? 入っていただくもの。」

「何かって、何ですか?」

「ほら、決ってるじゃない、カメムシなんだから、閉じ込められる入れ物だよ!」

「そんなこと言ったって、何ですか?」

「うーん、もういいよ、ビニール、ビニール袋だ!」

「あ、はい、どれにしましょう?」

「散歩のウンチ袋でいいよ、うん、それでいい、それをくれ。」

私はカメ子が差し出した薄いビニールをひったくると、それに手を差し入れて、カメムシをそっと掴もうとした。それは、スーパーで生鮮食料などを入れるためにくれる透明なビニールです。

「ようし、捕まえたぞ。成功だ!」

優しく慎重に対処したので、カメムシは臭い液を噴出してくることはなかった。
そのままビニールを反転し、カメムシを閉じ込めると、袋の出口をくるりと結んだ。

「ようし、これでもう大丈夫だ。ビニールの中からは、まさか臭わないだろう。」

私は、ニコニコしながら、ビニール越しにカメムシを嗅いでみた。

と、その時である。

プーンと、強烈なカメムシ独特の緑紫色の臭気が、私の鼻になだれ込んで来た。

「グエッ! ググググ・・・・、駄目だ! こんなビニールじゃ・・・」

よろけながら慌てて鼻から袋を離し、私は顔をゆがめた。

「強烈だな、カメムシの臭液は。完全に袋を突き抜けているよ。」

私は自分の愚かさを思いつつ、生物が持つ自然の力の強さに感心した。

どうして、こんな強い臭いが存在するんだろう?空気を入れても閉じ込められるのに、どうして臭いは出てくるんだろう?

臭いって、こんなに通気するものなのだろうか・・・

私の鼻がカメムシの臭いを感知するように、きっと麻薬探知犬なんかは、犯人が知恵を絞って臭いを隠した荷物をたくさんの旅客カバンの中から、こんな風にして簡単に臭いを嗅ぎ当ててるんだろうなとも、思ったのです。

カメムシ恐るべし!

皆さん、カメムシを見つけたら、丁重に応対して、なるべく穏やかに帰っていただきましょうね。
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バッタ

「ランランラン・・・、あれ、こんな所に虫がいる!」

それは台風の過ぎ去った翌日、久し振りに青空がのぞいたある日の昼下がりでした。
カメ子がモップを取り出して、診察室から待合室にかけて掃除を始めました。

鼻歌を歌いながら彼女が四角い部屋を丸く掃除していると、白いソファの前の床に、無言で構えている小さな生き物がいたのです。

それは流線型のとてもほっそりした、ちっこいちっこい緑色のバッタでした。

「あらあらバッタさん、あなた、いったいどこから入って来たの?」

カメ子はモップの手を止めて、バッタを覗き込みます。

「あなた、こんな所にいると、踏み潰されるよ。」

「・・・・・・」

「悪いけど、私は虫が苦手なのよ・・・」

「・・・・・・」

「申し訳ないけど、出て行ってくれない?」

「・・・・・・」

「うーん、どうしよう・・・、そうだわ!」

カメ子はお菓子を入れていた箱を持ってくると、バッタの前に置いてその中に追い込もうとします。

「えーと、バッタさん、あなたどっちが前で、どっちが後ろなの?両方ともおんなじに尖ってて、わかんないわね。」

「・・・・・・」

「しっし!・・・しっし!・・・ほら!・・・」

のそのそと、バッタは歩いて、箱に入りました。

こうしてカメ子はなんとかバッタを追い込むと、箱を持ってすぐに小走りで外に出て、ピョイとバッタを放したのです。

「バイバイ! もっと良い場所見つけなさいね。」

青い空と秋の風の中に、バッタは帰って行きました。

昼休みで誰もいない静かな動物病院の、カメ子とバッタの物語でした。
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5人姉妹

「この頃バルモアちゃんの後ろ足が悪いんだけど・・・」

13歳になる猫を連れてマダムTが、来院されました。

「どっちだったかな?こっち? いやあっち? いややっぱりこっちだったかな? あははは・・・わかりませんが、とにかくどっちか足が悪かったんです。」

アメリカンショートヘアーの大きな男の子です。診察台の上で、尻尾をピンと上げ、すりすりしてくれます。

「はて、どっちの足だろう? ・・・マダム、レントゲンを撮ってみましょうか。」

診察台の動きを見ている範囲では、あまり右左違いはありません。
レントゲン室に入ると、急にバルモアちゃんは暴れ出して、撮影はちょっと難航しました。
それでも検査の結果、大きな異常や病気はなさそうです。

「うむ、高齢猫の慢性関節疾患かもしれませんね。多分、本人にしかわからないような痛みがあるのでしょう。今は一見、普通に動いていますけど・・・」

相談の結果、鎮痛剤で様子を見ることにしました。

治療の合間に、マダムが話してくださいました。

「私は今、この子と二人暮しです。今年の正月に母が亡くなったから・・・。

いやね、もう十数年、母とずっと同居して介護していたんですよ、それが去年の暮れにちょっと病院に罹って診てもらったら、
『肺炎は起こしてないと思うよ。大丈夫と思うけど、もう一度どこそこの病院で診てもらいなさい』
と、言われてですね。

そちらへ連れて行ったら、『肺炎です』と言われて・・・、その前まで普通に話してたんですがねえ、

まさか亡くなるとは思わなかったんですが、元旦にね。92歳でした。
そしたら、もう一匹の猫が、すぐ4日に亡くなってですね。

だから今は、この猫と二人暮しですよ。

こんな猫でも、私が外から帰ったら『お帰り』と言って迎えてくれるから、心が和みますよ。フフフ・・・」

そういう話を聞くと、なおさらなんとかバルモアちゃんを元気にしてあげたいと思うのは、獣医でなくてもお分かりいただけると思います。

「ご兄弟はいらっしゃるんですか?」

「はあ、わたしは5人兄弟ですが、みんな女なんです。」

「えっ! 女ばかり5人ですか、わあ、じゃあ、次は男か、次こそ男かと、親は思ったでしょうね。」

「ハハハ、そうなんですよ、だいぶ親戚からも言われたらしいですけどね。でも、女ばかりでした。

だけどね、あとになってみれば、女ばかりの方が、いいんですよ。よく親元に集まるし、親の面倒も見るし・・・どんな集まりでも誰かが交代で台所に立つしね。」

「ところでマダムは、何番目ですか?」

「私? 私は5番目です。アハハハ・・・」

「そうですか、5番目なら、何かと得だったかも知れませんね。」

どうして末っ子が得なんだ!と、異論のある方もいらっしゃるでしょうが、ここは猫を見ながらそれとなく話した二人の会話の趣という事で、聞き流してもらえたら幸いです。

ちょっぴり腎臓機能が低下している事もわかったバルモアちゃんですが、まだまだ元気ですごしてもらわないといけません。

マダムのためにもね。
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楽しく褒めて

「犬と階段の前まで歩いてきます。そこで犬がそのままスッと階段を登ろうとしたら訓練士は犬の上にバタリと倒れ掛かり、大きな声で『危ない、停まらないといけない!』と、教えようとする、それを何度でも、何度でも、犬が覚えるまで繰り返す、それが昔私が教えられてきた訓練のやり方でした。」

病院猫の畏咲です。
ケージの中であんまり暇なので、盲導犬訓練士の多和田さんの著書を読んでいました。その中で、読者に考えて欲しくて著者が紹介しているくだりです。

うん、うん、なるほどと、おいらは納得してしまいます。
しかし、本の中で、著者はこう質問していました。

「皆さん、犬は階段で痛い思いをする体験を通じて、人間の期待通り学ぶでしょうか?本当に一旦停止を学ぶでしょうか?いや、痛い思いで犬が学ぶ事は、『階段は怖いぞ。』ということだけではないでしょうか?

つまり、なるべく階段から離れよう、遠回りしよう。あるいは、どうしても通らないといけないなら、階段を駆け足で、二段とびで通過してしまおう。そういうことを学ぶだけではないでしょうか。

犬だって、ハッピーに暮らしたいのです。楽しく生きたいし、飼主に褒めてもらいたいのです。
びくびくして、町を歩きたいはずがない。

それだから、階段発見ゲーム、道の段差発見ゲーム、四つ角発見ゲーム、それらを教えてあげて、歩行中にもしそれらができたら飼主からすごく褒めてもらえる、それに気がついたら、犬は喜んでそれに参加してくれるはずです。」

おいらの頭で理解できたことは、おおよそそういう内容でした。

うーん、そうか! なるほどねえ、「痛い思いをしてもわからない」ねえ、言われてみればそうかもしれないなあ。

うちの院長も、遊び歩いて夜遅くかえって来た時、いつも奥さんにこっぴどく叱られて痛い思いをしてるはずだけど、あまり改善しないもんなあ。

せいぜい奥さんに見つからないようにこそっと家に入ろうと、暗い庭で開く窓がないかうろうろしてるくらいなんだよね。

多和田さんの訓練を受けた犬は、街中で見るとすぐわかると言われたそうです。
なぜなら、尻尾を振って楽しそうに歩いているからです。

緊張して黙々と歩いているのでなく、あちことキョロキョロして、楽しそうだからわかると言われたそうです。

うーん、なんだか、すごく大事なことを聞いた気分です。

やっぱりなんでも、褒めて、楽しくですね。

さて先月も紹介させていただきましたが、多和田さんのお話が聞けます。

9月25日(日)10:30と13:00
       
 バプテスト野方キリスト教会
         http://www1.bbiq.jp/nokata/          092-811-7944
         福岡市西区七隈線橋本駅から5分

 主題「視覚障がい者と教会」



さあて、それじゃあ、院長のほうの訓練は、どうやったらうまくいくかしら・・・・・?
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駆け落ちの思い出

子猫のメンメンちゃんがコンビニの駐車場をチョロチョロしていたのは、今から15年ほど前になります。

「可哀想に・・・こんな小さい猫を、仕方ないわね・・・」

コンビニの経営者が見るに見かねて餌をやると、子猫は嬉しそうに食器に顔を突っ込み鼻の頭まで汚しながら食べ続けます。

「美味しい? おなか空いてた?」

「ミャー、・・・」

「もっと欲しいの? ほら、これも食べなさい。」

お店の裏口でもらったフードのありがたかったこと、これでメンメンちゃんは、「あたいは一生この家に住もう」と、決心したのです。

まあ、家人としてはあんまりありがたいことではなかったかもしれませんが、そこは行き掛かり上やむを得ないまま、メンメンは当然のような顔をしてお家の中にも上がりこみ、やがておうちで一番居心地の良い場所も見つけて、(ここが私の定位置よ!)と決めて、ゴロゴロするようになったのです。

「おい、メンメン!遊んでやろう!」

「こら、メンメン!ちょっと、来いよ!」

お父さんやお兄ちゃんに、いたずらされたり、からかわれたり、多少辛抱しなければならないこともありましたが、そんな時はプイと立ち上がり、尻尾を振り振りトットコ逃げ出して難を逃れたらいいのです。

幸い近所には草むらがたくさん残っていますから、時間をつぶす所はいくらでもあります。
スズメを咥えて来たり、ネズミやトカゲを咥えて来たり、そしてマダムの枕元にポトリと置いて澄まして寝てしまうのです。

「ぎゃー! あんたまた、こんなもの捕って来てから!・・・」

翌朝、マダムから大きな声で褒めてもらう事?が、楽しみでした。

しかしそんなメンメンの唯一の泣き所は、慢性の便秘症でした。
3歳の頃と9歳の頃に、他所の病院で重症の便秘のため、とうとうどうしようもなくなり、お腹を切って糞塊を取り出したこともあったそうです。

当院に通うようになって、それから5年、およそ月に1,2回のペースで器械による便の掻き出しをするようになりました。マダムも通院の合間に自宅でも浣腸をしましたが、それでも頑固な便秘でなかなか出てこずに、やっぱり病院で掻き出しです。

掻き出しをしながら、マダムからよく聞いた話は、彼女の実家は京都の西陣織の家であること、ご主人との交際を大反対されてまだ新幹線のない時代、国鉄電車に二人で揺られて九州に駆け落ちした事でした。

「本当に若かったわね、あんなことしたなんてね。今なら考えられないけどね。」

後年ご主人が重い病気に罹ってからは一生懸命看護して看取った事も、今はさばさばとした口調で、しかし懐かしそうに話してくださいました。

色々な話を聞きながら、メンメンちゃんの治療を続けましたが、この夏、肝臓を壊し食欲が落ちてからはだんだん痩せていき、7月に入っていよいよ食べれなくなりました。

そして31日、その日まで、よろよろ歩いていたそうですが、「ミャン・・・」と一声マダムの顔を見て挨拶して、フラフラと娘さんのベッドの下にもぐりこんだそうです。

(あれ、おかしいなあ?・・・なんだかお別れの挨拶をされたような気がするわ・・・」

マダムはその時そう思ったそうですが、1時間くらいしてベッドの下をのぞいてみたら、予感どおり、静かに亡くなっていたそうです。

「そうなんですよ。あの時、きっとメンメンは私に挨拶して行ったんだと思います。」

後日マダムは立ち寄って、その時の様子を話してくださいました。
けれど話しているうちにマダムの目が真っ赤になってき、話を打ち切るようにしてマダムはそのまま顔を伏せて急ぎ足で帰っていかれたのです。
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溶けたゴミ箱

「あっ、椅子だ! 色んな椅子があるっ!」

動物病院には時々カタログ販売の冊子が送られてきます。ペット用品や医療用品、あるいは事務用品などのカタログです。

その日は事務設備のカタログが届いたので、何気なくマル子がページをめくっていました。そしてあるページに来ると、キャスター付きの回転椅子の写真が何種類も掲載されていたのです。

「私ね、子供の頃、こんな椅子が欲しかったのよ!・・・ころころ転がって移動できて、くるくる回る椅子が!」

「あー、私もです! 私もこんな椅子が欲しいなあと思っていました。」

タマエも写真を覗きこみながら、共鳴している。

「でも買ってもらえなかったのよね。・・・四本足の普通の重い椅子で、絨毯をこすりながら椅子を動かして座ったり、立ったりしてさ・・・。」

「そうなんですよね、ガサガサって引きずって座るんですよね。」

「カメ子さんはどうだった?」

「え、ヘヘヘ・・・、私の勉強机は、キャスター付きの回転椅子でした。私、それに座ってくるくる回って遊んでたんですが、よくこけて、子供部屋の窓ガラスを三回も割りました。」

「え? 三回もガラスを割ったの?! そりゃ、あんまりだなあ、カメ子。君には反省するとか、向上心とかいうものが、欠けてるね。」

「エヘヘ・・・、私もそう思います。」

「ガラスと言えばね、僕は、小学校の4年のころ、廊下の窓を早く閉める競争を友達としていて、ガラスを割っちゃったのが忘れられないなあ。レバーを握って押し開ける昔の窓でさ、閉める時は引いてクイッとレバーをかけるんだけど、その時ガチャンて割れてね。

(あっ!・・・・)と、思って凍りついたよ。

ちょうど職員室の前の廊下でさ、泣いちゃったよ。いいや、先生からは怒られなかったんだけど、自分で大変な事をしたって、思ったんだろうね。シクシク泣いてたんで、先生が慰めてくれたよ。」

「フフ・・・、学校と言えばですね、私、掃除当番で、学級のゴミ箱を持って焼却炉に行ったことがあったんですよ。」

カメ子が続いて話し出す。

「焼却炉は危ないので、ゴミを入れてくれるおじさんが普通はいるんですが、その時は遅れて行ったかで、誰もいなかったんです。

それで自分で階段を上がって蓋を開けてゴミ箱を突っ込んでゴミを落とそうとしたら、そのままゴミ箱ごと落としてしまったんです。

(あっ、大変!、大変!)

私はあわててすぐ引っ張り上げたんですが、その時はもう縁が片方溶けかけてて、クニャクニャになっていました。

私、そのことは黙って誰にもしゃべらず、溶けた縁が向こうの隅になるよう、ゴミ箱を教室に戻したんです。でも、しょっちゅう、溶けた縁が手前側に置かれていることがあって、そのたびに奥の方に向けて一年間、こっそり置き直していました。」

「ハハハ・・・、悪い事をしてしまったと、思ったんだな。一年間、それを見続けたんだね。それにしても、焼却炉は危ないから、自分が落ちなくて良かったね。よく、事故があるからね。」

「そうですね、私・・・、この歳までのうのうとして生きてきたのは、意味があるのかな?・・・」

私は一瞬、耳を疑った。
カメ子の口から、そんな人生の根源的な質問が出てくるとは、思わなかった。

(ほー、カメ子もようやく、大事な問題に気がついてきたか・・・)

私はひそかに感心したが、さてその素晴らしいテーマは、カメ子の胸に育ち続けるかな?

・・・そして私はとりあえず、検査室の道具や色んな器械の壁側、奥の方に不具合のあるものがないか、今後チェックする事にしよう。
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草刈中に

「あーあ、まだまだ暑いわね。いやんなっちゃう。でも今日はこの公園を全部、草刈しなきゃならないから、気合入れて頑張ろう!」

八月も下旬のある日の事です。マダムFは南区の、ある大きな運動公園の草刈に取り掛かったのでした。

「ブルンブルン、ブルルル、ブイーン、ブイーーーン」

草刈機が唸り始めます。真夏の陽射しを存分に浴びて、広い公園のあちこちでは雑草が伸び放題でした。

「さあ、どこから取り掛かろうかしら・・・、じゃあ、私はグランドの方から行くね。」

いつもの通り手分けして、仕事を始めます。

「ブイーーーン、ブイーーーン」

エンジン音は快調です。

「チュルチュル、チュイーン、チュルチュルバリバリ・・・」

広場をうっそうとした草薮にしていた夏草たちは、銀色に光る回転刃によっておもしろいように刈り取られてゆき、あとには見る見るゴルフ場の芝草のような気持ちの良い広場が現われます。

小さな虫たちが慌てて飛び出し、
プーンと刈られた青草の爽やかな匂いが、公園に広がります。

「ガチッ、バキッ!」

「おっと、危ない、危ない!」

時々、捨てられた空き缶や瓶が草むらに転がっているので、うっかり機械がそれに触れると大きな音をたてて弾き飛ばしたり、あるいは草刈機の折れた刃先が飛んで行ったりして大変危険です。

首に巻いたタオルで汗を拭き拭きマダムは、草刈を続けました。途中、何度も水分を補給して休憩しながら、入道雲を見上げます。

さて、仕事を始めてから2,3時間たった頃でしょうか、
それは一瞬のことでした。

マダムが右から左に草を払いながらずんずん刈り込んでいた時、その金属の回転刃が切り開いた草むらのすれすれの所に、草と同じような色をした小さなかたまりが見えたのです。

「!?」

瞬間的に草刈機を動かす手を止めたマダムは、じっとそれを見つめます。

「えっ!・・・う・さ・ぎ・・・かな?」

その小さな灰緑色のかたまりはじっとして、少しも動きません。

「ええっ? 本当にウサギ? わあ、ちっちゃいなあ・・・」

危ない所でした。もう少しで切り刻む所でした。マダムは機械のエンジンを止め草刈機を下ろすと、その場にしゃがみこみます。

「あなた、こんな所で、どうしたの? どうしてこんなところにいるの?」

・・・・・・・

「先生、と、いうわけで、今日、草刈中にこのウサギを見つけたんです。あのまま放置してもすぐ猫やカラスにやられそうに思いましたから、連れて来ました。 健康状態を診てください。」

そう言って、夕暮れ時、マダムが診察室に連れて来たのです。

それは片手の上に載るくらいの、小さな命でした。生まれて二日くらいでしょうか。おなかにへその緒がついていた跡がまだ残っています。体重はわずか156g。

生れたばかりのウサギほど可愛いものはありません。ふっくらして、柔らかくて、無力で。それは飼いウサギが野生化して産んだもののように見えましたが、さて由来はどうなのでしょうか。

その日は哺乳用のミルクと低血糖対策のシロップを処方しました。


「あなたは岩間の野やぎが子を産む時を知っているか。
 雌鹿が子を産むのを見守ったことがあるか。」
                ヨブ記39章1,2節

小さな命は、人の心を限りなく豊かにしてくれます。
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誤解です!

「先生、昨日ですね、私、スーパーに行ったんですけどね、」

ある日、検査室で仕事をしていると、カメ子がそんなことを話し始めた。

「お店で商品を見ていたら、幼い子が私のそばに来て、スカートを引っ張りながら『ママがおらん!』って、泣き出したんですよ。

(あら、迷子かなあ? でも、きっとどこか近くにいるんだろうなあ・・・)

と思って、キョロキョロ辺りを見回してみたんです。そうしていたら、向こうから小学校二年くらいの女の子が、

『はな!、はなちゃんはどこ!』

と言いながら近づいてくるのが見えたんです。私は

(あ、この子のお姉ちゃんかな?こっちに気がついたら『ありがとう、お姉さん』て言ってくれるかな?)

と、予想してたんです。
そしたら、その女の子が来たら、私をキッと睨んで、いかにも私が泣かせたような顔をして、こわい顔して急いで連れ戻して行ったんですよ。」

「アハハ・・・、カメ子、それは泣かしたくらいですんでないかもしれないよ。妹が今にもさらわれかけていたと、思ったかもだね。ハハハ・・・」

「えっ! そうでしょうか。あの子は小さかったから、私に助けてもらったって、説明してくれないかなあ・・・」

「ハハハ・・・、無理だね、君は悪者だろうよ。」

人間って、悲しいですね。
スーパーに出かけただけで、誤解したり、誤解されたり、

毎日のいたるところで、そうやって人生を刻んでいくんでしょうか。


さて、その翌日の事、私の所属する獣医の研究会から、例会の案内書が届いた。

「カメ子、この番号にファックスして、返事を出しといてくれ。」

「はい、・・・あれ、先生。これ、何ですか? 何だか、いかがわしいですね。

えー! 場所が『中洲・個室物語、かぐや姫御殿』ですって。キャー先生、いやらしい!先生、こんな所に行くんですか? ね、みんな!先生が、いやらしいところに、行きますよ!」

「ちょっと、待てよ、カメ子。そこは普通の居酒屋だよ。いや、本当だよ、ただの親睦会なんだよ。オイッたら・・・」

トホホ、人間って、悲しいですね。

案内書をもらっただけで、誤解したり、誤解されたりして、
人生を刻んで行くんですね。
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