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聖ノア通信 - 当病院の日々の出来事、ペットにまつわる色々な話をつづります -

ポリシーに反したけど

「どうも色々お世話になりました。ようやく気持ちが少し落ち着きましたので・・・」

ムッシュN御夫妻とお嬢様が、おいでになりました。
もうすぐ桜が咲きそうな、三月のある暖かい日のことです。

「リリーが、まだ部屋のどこかにいるような気がしてね・・」

ムッシュがにっこりして、そう言われます。
自宅でもそうでしょうし、こうして待合室に来られても、きっと毎日点滴を受けた時の光景が目に浮かばれるのでしょう。

リリーちゃん(仮名)はくりくりした瞳を持つ、可愛いキャバリアでした。12歳を過ぎた昨年秋から弱り始め、長い間維持治療を続けていました。

とても優しい性格で、まだ元気な頃はシャンプーに来るたびに、みんなの人気者でした。

「そうですよね、いつもワンちゃんが寝ていた所に、つい視線が行っちゃうんですよね。」

「本当にこんなに賢い子は初めてでしたよ。」と、マダム。

亡くなる数日前からぱたりと食べなくなり、流動食を与えても吐きませんでしたが、まもなくそのまま逝ってしまいました。

御夫妻としばらく立ち話をした後です。

お帰りの時、私はお嬢さんに、半分冗談、半分本当に心配でご夫妻にも聞こえるようにですが、こうお願いしました。

「ご両親様が急にがっくりこないように、気をつけてあげてくださいね。」

するとお嬢さんが、何か思い切ったような表情をして、こう教えてくださいました。

「先生、実は私が、リリーに支えられたんです。というのは、この子がまだ来て間もない頃ですが、私が癌になっていることが分かったんです。

医者から、『あなたは手術しないといけないけど、手術をしても生存率は30%です』と言われました。

でも、私はポリシーとして手術を受けたくなかったんです。

だけど、もし私が手術を受けなければ、リリーを残して私が居なくなってしまうかもしれない。いや、そういうわけにはいかないと、考え直しました。

それで私は手術を受ける決心をしたんです。
それから10年と8ヶ月、私はこの子に支えられてきた様なものなのです。・・・」

初めてお聞きする話しでした。人はみな、それぞれの戦いを戦いながら、自分の人生を生きているのですね。

そしてまた私は、真剣なお顔でお嬢さんがそのように話してくださることを聞きながら、

「世話をしている者のほうが、実は支えられていることがある。人とは、そんな不思議な存在なんだなあ。」

と、改めて思わされたのです。
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